Gijika.comの応用編Aセット「標本の偏り,プラセボ,確証バイアス,後付け仮説,万能理論,因果関係と相関関係」のレクチャーメモ
Gijika.comの応用編Aセット「標本の偏り,プラセボ,確証バイアス,後付け仮説,万能理論,因果関係と相関関係」のレクチャーメモ
前回は初級編「自由と規制と疑似科学」についてまとめた.
今回は,Gijika.com(https://gijika.com/rate/literacy.html)にある応用編Aセット「標本の偏り,プラセボ,確証バイアス,後付け仮説,万能理論,因果関係と相関関係」の動画レクチャーを見たのでそのメモを残す.
このセットは6つに分けられている.
- 標本の偏り
- プラセボ
- 確証バイアス
- 後付け仮説
- 万能理論
- 因果関係と相関関係
Github:Gijikagaku/応用編Aセット(標本).ipynb at master · Cartman0/Gijikagaku · GitHub
標本の偏り
- 統計を取る場合,調査の対象となる集団全体(母集団)から,実際に調査を行う標本を抽出することがよくある.
- 特に,統計の対象数が多すぎる場合,ランダムな標本抽出によって集団の性質を推定する.
- しかし,この過程で偏りのある標本抽出がなされると,統計結果の信ぴょう性が失われる.
例:血液型と性格
例えば,「血液型によって性格に違いが出ると思うか?」という質問を血液型占いが掲載されている雑誌の紙面上で行うと, 結果は肯定に偏るでしょう.
その雑誌の購読者は血液型と性格に興味関心があって購入しているからです.
このアンケート結果をもってして, 「血液型と性格の関係を多くの人が肯定している」とすることは誤りだと言える.
ランダムに標本が選ばれた場合と違い, 何らかの偏り(バイアス)が入り込んでいる可能性が高い.
統計データの背景にある要因を細かく推定することが大切.
プラシーボ効果
科学的に何の薬効もないに偽薬(ぎやく)であっても,それを受け取った患者が 「この薬はよく効く」と信じ込んで飲むことによって症状が改善することがある.
例えば,砂糖玉(偽薬)であっても,風邪薬と思い込むことによって多くの症状が改善する.
いわゆる民間療法などとの関連性が高く,そうした治療法の多くがプラシーボ効果に頼っていることが指摘されます.
プラシーボ効果との区別
ある治療効果を測定する際,クスリによる「真」の効果なのか,プラシーボ効果なのかを区別することは重要である.
というのも,その区別がつかなければ,多くの医療行為が立ちいかなくなってしまうから.
そのため,ヒトを対象とする科学研究では,プラシーボ効果を極力排除するために研究方法に工夫が凝らされている.
二重盲検法がその代表例
二重盲検法の必要性
人体は大変繊細である.同じ病気にかかっても,敏感な人は少しの症状でも辛く感じるでしょうが,反対にあまり気にならない人もいる.
まったく同じような症状が見つかった場合にも,その症状は人によって微妙に違うし,主観的な辛さの程度の異なる.
二重盲検法のような厳密な検証過程を経ることが, 薬としての効果を確立するためには重要である.
プラシーボ効果のよくある誤解:
一方,よくある誤解の1つに,「プラシーボ効果はただの思い込みなので,実際には体調はよくなっていない」というものがあるが, これは正確ではない.
プラシーボ効果だとしても症状は軽くなるし,隊長もよくなる
ストレスが体調に悪影響を及ぼすことがよく知られているように,偽薬による思い込みだとしても病気が治るという事実は,一方ではあるといえる.
偽薬による費用対効果
しかし,偽薬による治療には費用対効果という問題がある.
効果の正体がプラシーボだとすると,費用とのバランスがとれていないことが問題となる.
偽薬には有効成分が含まれていないので,期待できるのは最大でもブラシ―ボ効果である.
ゆえに,真の薬を上回るかのようにプラシーボ効果を過大評価することには懐疑的にならざるを得ません.
プラシーボ効果のよくある誤り
プラシーボ効果に関しては他にも, 「同じように治るならば副作用のないに偽薬のほうがいい」, 「安い偽薬ならば目くじらを立てるべきではない」などの意見が聞かれるが,これは誤りである.
患者が偽薬だと知ってしまうと「思い込み」は発生しないし, より有効であるはずの真の薬が使われなくなることも問題となる.
プラシーボ効果を有意義に使うという考え方自体はよくわかるが, かといって偽薬が積極的に肯定されるわけではないということも,重ねて考えていく必要がある.
確証バイアス
「知人に貰った幸運のお守りのおかげで,今日100円を拾いました.」
「知人に貰った幸運のお守りのおかげで,テストの点数が上がりました.」
「知人に貰った幸運のお守りのおかげで,彼女(彼氏)ができました.」
日常の中で,このように思ったことはありませんか?
確証バイアスとは
確証バイアスとは,本来であれば偶然起きただけの体験の間に対し,認知の偏りから「意味付け」を行うことをいう.
「お守りの効果」がいい例.
お守りの効果が信じていると,効果があるとみなせる事例ばかりが目につき, その確信をより深めることになる.
お守りの効果を信じがたいがために,体験を探してくるとも言い換えられる.
お守りの効果の勘違いしやすい部分
おそらく100円を拾ったのは偶然でしょうし, テストの点が上がったのは本人の努力,
恋人ができたのは,もっと様々な要因があるから, それらすべてを「お守りの効果」に帰属させてしまうのはやや短絡的.
確証バイアスによって,「お守りの効果」を確証するのに都合のいい記憶ばかりが思い出される.
後づけ仮説(アド・ホック仮説)
後付け仮説は,科学の世界ではよくない考え方とされている.
既存のデータを同じくらい説明する理論がいくつかあったら,より簡潔な理論の方を採用することが好ましい.
なぜなら,ある理論を否定するデータが得られたときに, 理論の方を後付けで補正し続けると,どんどん複雑になっていき,使えなくなってしまうため.
また,屁理屈を捏ね続けることでデータが,なおざりになり, 建設的な議論の妨げになってしまう.
将来のデータを十分に予測できなければ科学的な理論とは言えない.
後付け仮説(アド・ホックな仮説)の問題点:
このような科学の前提を踏まえ,後付け仮説(アド・ホックな仮説)の問題点を考えてみる.
アド・ホックとは「特定の目的のために」という意味である. ある仮説を正当化するために後付けで理論を構築することをアド・ホックという.
科学的に何かを主張する場合,その説明責任は「肯定する側」にある.
観測(調査)データから規則性を予測して仮説を立てるのが科学的な手順であるため,「後付け」によってどんな反証をも受け入れない複雑化した理論は問題である.
具体的な例
2人の会話
A「血液型が何型かによって君の性格がわかるよ.」
B「え?心理学の研究では否定されてみたいよ.」
A「心理学の研究は私たちがいう性格ではない.この本の調査によると,血液型によって性格が異なることが示されている.」
B「でも,その調査では男性に結果が出ているけど,女性には出ていないみたいね.」
A「別の調査では女性にも結果が出ているよ.」
B「今度は男性の結果が出ていないみたいよ.しかも,質問項目がさっきの研究と同じだから,(男性と女性で)一貫した結果にもなっていないわ.」
A「調査する時期によって,男性に(その結果が)出る場合と女性に出る場合があるんだ.」
B「どんどん仮説が付け足されていくわね」
万能理論
万能理論とは,どのようなことに対しても説明を与えられるダメな理論をいう.
一見すると素晴らしい理論のようにみえるが,科学の世界ではよくない考え方.
将来を予測して,それが起きるか起きないかを確かめるという手段がとれなければ, 真偽の判別がつかず,科学的な議論も成立しなくなってしまう.
科学的な理論は,起きそうなことを予測すると同時に,起きそうもないことも予測しなければならない.
万能理論は,何が起こってもその理論によって起きた理由を説明できてしまうため, 予測の役に立たない.
万能理論の具体例:幽霊
幽霊の性質を示す万能理論.
ある幽霊愛好家が「霊や魂は,物体になったり,ならなかったり,自らの意思で自由に変えられるのです」という理論を提唱し,幽霊は存在すると主張する.
しかし,幽霊否定派に「幽霊は壁を通り抜けるくせに,ドアを叩いたり足音を鳴らしたりするのは矛盾している」と反論されてしまいます.
万能理論はなんとでも言えてしまう:
本来であれば,実験などの客観的な手続きによって皆を納得させなけえれば「科学」とはいえない.
しかし,この場合,幽霊愛好家はどんなことも「幽霊の意思」で片付けることができてしまう.
実験で目撃されてなくても,写真に写っても写らなくても,壁を通り抜けた次の瞬間ドアを叩いたとしても,常に幽霊が存在すると主張できてしまう.
これでは,幽霊の性質について何も言ったことにはならない.
こうした説明を万能理論という.
因果関係と相関関係
ここでは,データの関係性について考える.
ある中学校で次のデータが得られた場合,下の仮説は正しいと言えるか?
データ: - 国語の達成度得点が高い人ほど身長が高い - 国語の達成度得点が低い人ほど身長が低い
仮説: - 「国語の勉強をすれば身長が伸びる」
因果関係と相関関係の違い
因果関係とは,ある原因によってほかのデータに直接的に影響を及ぼすことをいう.
一方,相関関係とは,あるデータと別のデータの間に単に関連のあることをいう.
「国語の勉強をする」ことが原因で,その結果として「国語の成績が良くなる」という詳細なステップが示されているのなら,これは因果関係があるといえる.
一方,相関系は何が原因であるかは問われず,両方のデータに関係があるかどうかだけが問題となる.
今回は,「国語の成績」と「身長」には相関関係があるが,因果関係はない.
実は,今回のデータに影響を及ぼしている第3の要因に「年齢」がある.
身長と国語の点数の間には,共通の要因で得ある年齢がある.
中学校全体では低学年の生徒ほど身長も低く,国語の達成度も未熟だと考えられる,
反対に,高学年になるほど背も伸び,国語力も上がっていく.
因果関係を推定するのであれば,年齢別に身長と国語力を調査したうえで判断するべき.
年齢を考慮せずに集計したため,身長と国語の点数の間に相関関係が見られたと考えられる.
得られたデータの関係性を意識して考えてみる